目次
- タンナ島という舞台 ─ バヌアツの秘境
- ヤスール火山へ辿り着くまで ─ バヌアツ国内線とAirTaxi体験記
- ヤスール火山の火口の縁に立つ ─ 世界で最も近づける活火山
- 神話と火山信仰─ ヤスール火山とジョン・フラム信仰
- ヤスール火山を訪れる意味 ─ バヌアツで体感する地球の鼓動
南太平洋の孤島タンナ島。その大地の中央に、世界でも数少ない「間近で火口を覗ける火山」として知られるヤスール火山が息づいている。轟音とともに噴き上がる溶岩、夜空を赤く染める噴火の光景──そこには文明以前の地球がまだ続いているかのような光景が広がっていた。
タンナ島という舞台 ─ バヌアツの秘境
バヌアツ共和国の南端に位置するタンナ島は、外界から隔絶されたような原始的な風景を残す島だ。舗装されていない赤土の道、竹と椰子で組まれた村の家々。ここでは時間の流れが異なるように感じられる。

島の象徴としてのヤスール火山
標高361mと決して高くはないが、その存在感は圧倒的。島全体の精神的中心でもあり、訪れる者を強烈に引き込む。
ヤスール火山へ辿り着くまで ─ バヌアツ国内線とAirTaxi体験記
火山への道のりを記す前にタンナ島へ辿り着くまでに紆余曲折あり、話させていただきたい。
バヌアツへ到着した翌日、私は今旅最大のミスを犯した。予約した国内線をまんまと乗り過ごしたのだ。あまりのショックに意識が朦朧とし始めた私にさらに追いうちがかかる。なんと9月のタンナ島行きの便は全て満席となっていた。
滞在2日目にして最大の目的地への切符を失ったのだった。
うなだれながら滞在先への帰路に就く中、なんとかしてタンナ島に行く方法を模索した結果、唯一ヤスール火山へのツアー便を運航しているAirTaxi社のツアーに空席があり、参加できることになった。
「なんとかタンナ島に行ける!」と心の中でガッツポーズしたのは言うまでもないだろう。
(この後さらに恐怖体験することも知らず…)
そもそも私が国内線を乗り過ごしてしまった理由とタンナ島に行くための手段は別機会にまとめようと思う。
タンナ島への移動当日、ポートビラ・バウアフィールド空港に到着し、受付を済ませ飛行機へ向かった。

搭乗する飛行機はセスナタイプで、定員は10名だった。タンナ島行きの便が全て満席だったのもうなずける。

ちなみにこのAirTaxiという会社は、前年に2度墜落事故を起こしていることを、搭乗直前に知ることになった。
神経質な方は避けた方が賢明だ。
参考に記事を貼っておく。
https://www.rnz.co.nz/international/pacific-news/522284/one-confirmed-dead-in-air-taxi-vanuatu-plane-crash

遺書でも書いておこうかと不安になる私をよそに、飛行機は離陸した。

そして無事、タンナ島に降り立つことができたのだった。

空港からはジープに乗り換え目的地へ向かう。

空港から火山までは車で約2時間かかる。タンナ島の自然を満喫したい場合は荷台の特等席をお勧めする。ただし、後半の1時間は荒れた道を抜ける為、荷台から振り落とされないよう注意が必要だ。
道中、多くの島民とすれ違う機会がある。彼らはユーモア溢れた人柄でカメラを向ければ刹那的な瞬間に出会える。この瞬間が最も心地良かった。




風を切る音。木々の囁き。立ちのぼる土煙──そして子供たちの愉快な笑い声。
都会で荒んだ心が穏やかになれる時間だった。
ジャングルから火山灰の大地へ
森を抜けると突然、黒い火山灰の荒野が広がる。空気は硫黄の匂いを帯び、地鳴りが足元から伝わる。その先に姿を現すヤスール火山は、まさに「島の神秘」と呼ぶにふさわしい畏怖を感じさせる。

ヤスール火山の火口の縁に立つ ─ 世界で最も近づける活火山
火山の裏手に回り、案内人とともに頂上を目指していく。

火口の縁へ辿り着くと先ほどの地鳴りが轟音へと変わる。


夕暮れになり、夜に近づくにつれて徐々に期待と緊張が高まる。

噴火の瞬間
突如、爆発音とともに赤いマグマが吹き上がる。ついにその瞬間が訪れた。

火口の奥は赤黒く燃え盛り、空を裂くような轟音が響き渡る。
その光景は恐怖と畏敬を同時に抱かせる。


神話と火山信仰─ ヤスール火山とジョン・フラム信仰
ヤスール火山は観光地であると同時に、島民にとって神聖な存在で信仰の対象でもある。
第二次世界大戦後に発生した「ジョン・フラム信仰」というカーゴ・カルトと結びついている。この信仰では、ジョン・フラムという人物が火山の内部に住んでいると現在進行形で信じられているのだ。

ジョン・フラム信仰の起源
太平洋戦争中、アメリカ軍がもたらした物資や文化は島民に強烈な印象を与えた。これらの「富」を再び呼び戻したいという願望から、「ジョン・フラム」という人物を待望する信仰が生まれたとされる。信者は、彼が再びアメリカから戻り、島に富や幸福をもたらすと信じ続けている。
火山と神の居場所
ヤスール火山は、ジョン・フラムが住む場所と考えられており、島民にとっては神聖な火口そのものが「聖域」である。火山の噴煙や轟音は、神の存在を示す声として受け止められてきた。
儀式と祭り
信者たちは毎週金曜日に、ジョン・フラムに敬意を表する儀式や祭りを行う。伝統的な踊りや祈りを通じて、再来を願い、火山との結びつきを確認する。こうした祭祀は単なる宗教儀礼ではなく、コミュニティを維持する文化的な基盤ともなっている。
観光との共存
現代では、ヤスール火山は観光客にとっても大きな魅力だ。しかし、訪問の前に地元住民が神へ許可を祈る儀式を行うことがある。これは、聖域に入るための礼儀であり、観光と信仰の共存を象徴するものといえる。後日確認すると、個人での訪問は不可とのことだった。必ず地元住民の案内が必須となる。
まとめ
ジョン・フラム信仰は、西洋の文化や物資がもたらされた驚きと、それを再び呼び戻したいという願望から生まれたカーゴ・カルトの一例である。そして、その中心には常にヤスール火山が存在してきた。神話、信仰、観光が交錯するこの火山は、単なる地質学的現象ではなく、人々の精神世界を形づくる「生きた神殿」なのかもしれない。
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この分野に特化した文献や写真集は少ないため、手に取る価値は高いだろう。
ヤスール火山を訪れる意味 ─ バヌアツで体感する地球の鼓動
ヤスール火山は「世界で最も火口に近づける活火山」として知られ、バヌアツ・タンナ島観光の象徴である。轟音と炎の噴火、ジョン・フラム信仰の神秘、島民の温かさ──そのすべてが絡み合い、ここでしか得られない体験を生み出している。南太平洋の秘境を訪れるなら、ヤスール火山は絶対に外せない目的地だ。


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