砂漠の峡谷を抜けた先に突如出現する巨大な岩壁の神殿──ペトラ遺跡。この都市を築いたナバテア人とは何者なのか。どこまで発掘されているのか。さらに交易都市パルミラやシルクロードとの接点を概観し、旅行者視点と事実情報を踏まえて、囁かれている都市伝説をとりあげる。
- ペトラ遺跡とは何か──砂漠に現れた岩の都
- ナバテア人とは何者か──交易で栄えた砂漠の民
- 発掘はどの程度進んでいるか──見えているのは“ごく一部”
- 都市伝説とオカルト解釈
- パルミラとシルクロード:砂漠に咲いた双子の都市
- まとめ
- 次回予告:現地で味わったペトラの“異世界感”
ペトラ遺跡とは何か──砂漠に現れた岩の都
ヨルダン南部の荒野に位置するペトラ遺跡は、岩山を直接くり抜いて造営された古代都市である。映画『インディ・ジョーンズ』で広く知られるが、現地の体験は映像表象を越える。峡谷シークを約1.2km進み、岩の隙間から宝物殿(エル・カズネ)が姿を現す瞬間は、異世界との邂逅そのものである。

ナバテア人とは──交易で栄えた砂漠の民
ナバテア人は前3世紀頃から死海~紅海に勢力を張ったアラブ系集団で、乳香・没薬・香辛料・絹など隊商交易の要衝を抑えて富を蓄えた。首都はペトラ。建築はヘレニズム、ローマ、エジプトの要素を摂取しつつ、岩窟に壮麗なファサードを刻む独自美を示す。西暦106年、ローマ帝国に編入(Arabia Petraea)され、政治的自立は終わりを告げた。

発掘はどの程度進んでいるか──見えているのは“ごく一部”
観光動線で目にする宝物殿、修道院(エド・ディル)、王家の墓廟群は氷山の一角に過ぎない。公開情報や調査報告によれば、発掘・学術調査は全体の一部にとどまる。衛星画像・地上踏査によって未調査構造物の存在が指摘され、都市の大半が今なお土砂や岩盤下に眠る可能性が高い。

都市伝説とオカルト解釈
宝物殿(エル・カズネ)の“壺”と財宝伝承
考古学的には、宝物殿はナバテア王国の王族の墓であった可能性が高い。
実際、2024年10月12日 アメリカのピアース・ポール・クリースマン博士の率いる考古学研究チームが発掘し、12体の遺骨と副葬品が見つかっている。
しかし、地元の伝承では、正面上部に彫られた壺の装飾に財宝が隠されていると信じられてきた。
実際に過去の人々が壺を銃で撃ち抜いた跡があり、伝説が現実の行動を引き起こしたことがわかる。
つまり、宝物殿は「墓である」というのが学術的な理解であり、
「財宝が眠る場所」というのは後世に生まれた伝説にすぎない、という整理が妥当である。

ベテル(聖石)とドゥシャラ信仰
ナバテア人の主神ドゥシャラは、その名が「山の主」を意味し、ベテル(聖なる石)として祀られていたと考えられている。
実際に、香を焚いて神を崇める儀式が行われていたことは、出土した遺物からもうかがえる。
一方で、「実は隕石を神として崇拝していたのではないか」という説も後世に広まったが、これは人気のある解釈にすぎず、確かな証拠はない。
したがって、石を神聖視していたことは史実であり、隕石崇拝説はあくまで伝説や推測の域にとどまっている。
未発掘構造と“失われた神殿”の噂
調査報告によれば未調査エリアの存在は確実で、地中構造やプラットフォームが報告されてきた。これが失われた神殿や天文観測施設といった二次的解釈を誘発し、都市伝説の温床となる。ただし、未解明=何でも可ではない。新しい発見は一次資料の検証に基づいて理解すべきである。

パルミラとシルクロード:砂漠に咲いた“双子の都市”
ペトラは紀元前6世紀頃から栄えていたが、紀元106年にローマ帝国に併合されて徐々に衰退していった。その後入れ替わるようにシリア砂漠中央に位置するオアシス都市パルミラが台頭する。
シリアのパルミラとヨルダンのペトラはいずれも東西交易の結節点であり、シルクロード物資(絹・香・香辛料等)を地中海へ媒介した。建築装飾、宗教習合、ローマとの力学など共通項は多く、砂に埋没し再発見される“幻の都”として並び称される。
まとめ:ペトラは“現在進行形の謎”である
- ナバテア人は隊商交易で繁栄し、岩窟都市ペトラを築いた。
- 発掘は部分的で、未調査エリアは依然多い。新発見の余地は大きい。
- 都市伝説(財宝・聖石など)は史実の核と伝承の層が重なる。両者を切り分けて読む姿勢が有効である。
- パルミラ/シルクロードの視野を加えることで、砂漠都市の位置づけが立体化する。
次回予告:現地で味わったペトラの“異世界感”
ここまで見てきたように、ペトラ遺跡は歴史と都市伝説が重なり合う“現在進行形の謎”である。
しかし、文字や写真だけでは伝えきれない瞬間がある。
シークの暗い峡谷を歩き、わずかな光の先に宝物殿が姿を現すあの衝撃。
現地に立たなければわからない“異世界感”が、確かにそこには存在した。
次回は、実際にペトラを訪れた探訪記をお届けする。
体験者の視点から、写真とともにあの瞬間を記録していく。
関連記事:


コメント