マサダ ─ 死海を望む「最後の砦」とユダヤ民族の悲劇

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史実としての限界 ─ 集団自決は本当にあったのか

しかし、この劇的な物語はヨセフスという一人の著者に依拠しており、そのまま史実とみなすべきかについては注意が必要である。ヨセフスはローマ側の庇護を受けつつ著作活動を行っており、政治的配慮や文学的脚色が含まれている可能性が指摘されている。
人数、演説内容、殺害の手順など、具体的な描写の一部は、読者に強い印象を与えるための構成である可能性もある。一方で、1960年代の発掘調査で確認された焼けた建物、炭化した穀物、武器類、人骨片などは、激しい攻城戦と破壊があったことを裏付けている。
現代の歴史学では、「何らかの集団的な死が起きた可能性は高いが、ヨセフスの物語をそのまま事実として受け取ることも、完全な虚構とみなすこともできない」という中間的な見解が主流である。

発掘調査が示すマサダの実像 ─ ヤーディンの成果

1963年から1965年にかけて行われたイガエル・ヤーディン率いる発掘調査は、マサダの実像解明に大きく貢献した。
ヘロデ期の宮殿、浴場、シナゴーグ、防御施設、貯水槽、倉庫、住居跡が詳細に記録され、ローマ軍の包囲線や堡塁も明確に確認されている。
また、土器片の中には名前が刻まれたものもあり、ヨセフスが記す「くじ」の存在を連想させる資料として注目されている。これらの遺物は、要塞が長期の籠城と激しい戦闘の舞台であったことを物語るものである。

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