現代のマサダ ─ 世界遺産としての評価と観光地としての姿
2001年、マサダはユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録された。登録理由には、ヘロデ期建築の保存状態の良さ、砂漠地帯における水利システムの巧妙さ、ローマ軍包囲線の残存といった考古学的価値に加え、第一次ユダヤ戦争終結の象徴的舞台としての歴史的重要性が挙げられている。
現在のマサダは国立公園として整備され、ロープウェイや登山道が整えられている。東側の「スネーク・パス」を夜明け前に登り、山頂から死海に昇る朝日を眺める体験は、多くの旅行者にとって忘れがたいものとなっている。山頂部を歩けば、宮殿跡や倉庫跡、ローマの攻城ランプを見下ろすポイントなど、古代史の舞台が連続して現れる。


現代イスラエルでの象徴性 ─ 「マサダは二度と陥落しない」
マサダは、古代の悲劇の現場であると同時に、現代イスラエルにおいて特別な象徴性を帯びる場所である。イスラエル建国後、マサダは国家再生と民族的記憶を象徴する場所として位置付けられ、教育や軍事の場でも重要な役割を果たしてきた。
イスラエル国防軍(IDF)の新兵たちはかつて、夜明けのマサダ山頂で誓いを立てる儀式を行い、次の言葉を宣誓として唱えたとされている。
“Masada shall not fall again.”(マサダは二度と陥落しない)

この言葉は、単に要塞そのものが再び占領されないという意味ではなく、外的支配に屈しないという精神的独立と、国家と共同体を守るという信念を象徴するものである。
ここで語られる「自由」とは地理的な都市の自由ではなく、あくまで精神的・象徴的な自由である。たとえ物理的には追い詰められたとしても、「精神の陥落は許さない」という誓いが、この言葉に込められていると言える。
この象徴性は、現代のイスラエル社会においても完全に消え去ったわけではない。マサダは、過去の悲劇と抵抗の記憶が、現在の価値観や国家理念にどのように影響し続けているのかを考えさせる場所であり続けているのである。



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