UFOの聖地と呼ばれる米国ニューメキシコ州ロズウェルを訪れてきた。今回はUFO論争の出発点ともいわれているロズウェル事件について取り上げたい。

ロズウェル事件──アメリカの砂漠に墜ちた“何か”の真相を追って
1947年、アメリカ・ニューメキシコ州──乾いた大地に風が吹き抜けるこの地で、“空から落ちてきた何か”が、後の世界を大きく揺るがすことになる。
きっかけは、牧場主の発見から始まった
1947年6月下旬、ロズウェル近郊にある牧場で、地元の牧場主マック・ブレイゼルが奇妙な残骸を発見した。金属のような破片、細い棒、異様に軽い紙のような素材──どれも彼の見たことのないものばかりだった。
最初は嵐か飛行機事故かとも考えたが、牧場の一角に散乱するその異様な物体を見て、彼はただならぬものを感じ、地元の保安官へ通報。そしてその情報は、すぐにロズウェル陸軍飛行場(RAAF)へと伝えられた。
「空飛ぶ円盤を回収」──衝撃のプレスリリース
7月7日、RAAFの情報将校ジェシー・マーセル少佐らが現場を調査し、残骸を回収。そして翌7月8日、世界に衝撃が走る。
「第509爆撃航空団が空飛ぶ円盤を回収」

と地元紙が報じたのである。これが、後に「ロズウェルUFO墜落事件」として語り継がれるニュースの発端だった。
ところが、その数時間後には軍が方針を一転し、
「実際には気象観測用の気球の残骸だった」
という訂正声明を発表。マーセル少佐は“気球の破片”とされる物体と一緒に写真撮影され、事件は幕引きされたように見えた。
だが──それで終わるはずがなかった。

真相再燃──30年後の告白と陰謀論の渦
時は流れ、1978年。UFO研究家スタントン・フリードマンがマーセル少佐へインタビューを行う。そこでマーセルは、「あの残骸は気球なんかではなかった」と明言。さらに彼は、軍から情報を伏せるよう指示されたとも語った。
この告白を皮切りに、“あれは本物のUFOだった”、“宇宙人の遺体もあった”、“軍は隠蔽している”という主張が続出。1980年には『ロズウェル事件』という本が出版され、以降、この町は陰謀論者と観光客の聖地と化していく。

モーグル計画──米軍の“もう一つの真実”
1994年、ついにアメリカ空軍が重い口を開いた。
ロズウェル事件の正体は、ソ連の核実験を探知するための極秘任務、**「モーグル計画」**の高高度気球だったという。
さらに1997年の報告書では、「宇宙人の死体」とされたものは、実は後年のダミー人形だったと説明。これにより、政府は一応の決着を図った。
だが──すでに民間の想像力はそのはるか上空を飛び越えていた。
ロズウェルは今、どこへ向かうのか
現在、ロズウェルの町にはUFO博物館が建ち、毎年「UFOフェスティバル」が開かれる。かつての“砂漠の事件現場”は、好奇心あふれる旅人と、真相を追う陰謀論者でにぎわう観光地となった。


気球だったのか、宇宙船だったのか。
それとも、今も私たちが知らない“何か”だったのか。
乾いた砂に埋もれた謎は、いまだ解明されないままだ。

ロズウェル事件の時系列
【1947年】
- 6月中旬ごろ:
- ニューメキシコ州ロズウェル近郊の牧場主**マック・ブレイゼル(Mac Brazel)**が、自身の牧場で謎の残骸を発見。
- 残骸は、金属片や棒、紙のような素材などで構成されていたという。
- 7月4日:
- ブレイゼルがロズウェル保安官に報告し、保安官はアメリカ陸軍航空隊(AAF)に連絡。
- 7月7日:
- ロズウェル陸軍飛行場(RAAF)の情報将校ジェシー・マーセル少佐が現場を訪れ、残骸を収集。
- 7月8日:
- RAAFが「空飛ぶ円盤を回収した」とするプレスリリースを発表(これが後に大騒動に発展)。
- その数時間後、米陸軍が「気象観測用の気球の残骸だった」と訂正発表。写真撮影では、マーセル少佐が気球とされる残骸の前でポーズを取らされた。
- 7月9日以降:
- マック・ブレイゼルが新聞社に語った内容が報道される。彼は軍から報告しないよう暗に示されたと証言。
【1978年以降:事件の再燃】
- 1978年:
- UFO研究家のスタントン・フリードマンが、元情報将校のマーセル少佐にインタビュー。マーセルは「残骸は気球ではなかった」と証言。
- これを契機にロズウェル事件がUFO陰謀論として再び注目を集める。
- 1980年:
- 著書『The Roswell Incident(ロズウェル事件)』が出版される(著:チャールズ・バーリッツ他)。
- 墜落したのは宇宙船であり、宇宙人の死体も発見されたと主張。
【1990年代:米政府の公式調査】
- 1994年:
- 米空軍が報告書『The Roswell Report: Fact vs Fiction in the New Mexico Desert』を発表。
- 墜落したのはモーグル計画(Project Mogul)の高高度気球であると結論。これはソ連の核実験を探知する極秘計画。
- 1997年:
- さらに報告書『The Roswell Report: Case Closed』を公開。
- 宇宙人の死体とされるものは、1950年代の高高度脱出実験用のダミー人形であったと説明。
【2000年代以降】
- 映画、ドキュメンタリー、テレビ番組などでたびたび取り上げられ、都市伝説・陰謀論の象徴的事件となる。
- ロズウェルの街ではUFOミュージアムや「UFOフェスティバル」が開催され、観光資源としても活用。

補足:モーグル計画とは?
- ソ連の核実験を検知するための極秘音響監視気球プロジェクト。
- 高高度で飛行する一連の気球・機材で構成されており、機密性が非常に高かったため、当時は軍が詳細を明かせなかった。
