イスラエルとヨルダンの狭間に横たわる死海は、古代の神話と科学が交錯する“塩の異界”だ。ソドムとゴモラの滅亡伝説、血のように赤く染まる湖面、そして崩れゆく大地——。人類はこの湖に何を見、何を恐れ続けてきたのか。

死海──塩の海に隠された神話と科学の狭間
死海とは何か?
死海(Dead Sea)は、イスラエルとヨルダンの国境に横たわる内陸湖であり、地球上で最も低い地点に存在する湖として知られている。その水面は海抜約-430メートルに位置し、地殻変動によって形成されたリフト谷に広がっている。特筆すべきは、その塩分濃度の高さで、海水の約10倍、30%近くに達する。この極端な塩濃度が生物の生存を拒み、湖に「死」という名を与えた。

古代文明と死海の伝説
ソドムとゴモラの記憶
聖書の創世記には、死海沿岸にあったとされるソドムとゴモラが神の怒りによって滅ぼされた記録が残る。現在の死海南部に位置する「ソドム山」は塩の岩山であり、伝承ではロトの妻が振り返ったことで塩の柱にされたとも語られる。この逸話は、死海周辺の異様な風景と相まって訪れる者に不気味な印象を与える。
塩の柱と錬金術の夢
古代人は死海の塩を「神の贈り物」と見なし、錬金術師はこの塩に不老不死の秘密があると信じた。しかし、この地を訪れた者は「癒やし」と「呪い」の両方を感じるとも言われている。
死海の科学的側面
なぜ生物が住めないのか
死海の高い塩分濃度はほとんどの生物にとって致死的だ。しかし、微小な塩生菌や藻類は生き延びており、時折水面を赤やオレンジに染め上げる。これらの現象は古代人にとって「血の湖」として恐れられたとされる。
浮遊体験と健康効果
死海では人間が簡単に浮かぶことができる。この現象は科学的には高密度の塩水による浮力のためだが、古代人は「魂が水に拒絶されるからだ」との伝説を残した。
死海と現代の謎
干上がる湖──地球規模の警告
20世紀以降、死海の水位は著しく低下している。この現象は自然の摂理か、それとも人類の業による呪いか。科学者はヨルダン川の水利用が原因と分析する一方で、オカルト愛好家は「古代の封印が解かれた兆し」と見ている。
陥没穴と地底文明説
近年、死海沿岸で無数の陥没穴が発見されている。一部ではこれを地底に眠る古代文明が目覚める兆候とする説もささやかれる。
死海を巡る旅
アクセスと観光情報
死海はイスラエル側・ヨルダン側のどちらからもアクセス可能だ。エン・ゲディ自然保護区やマサダ要塞など、周辺には歴史的・自然的に魅力的なスポットが点在している。しかし、この地に足を踏み入れるときは、古代の伝承を思い出さずにはいられないだろう。

死海の謎は解かれるのか
科学と伝説が交錯する死海は、単なる観光地ではない。その水面は鏡のように空を映しながら、今もなお人類に問いを投げかけ続けている。
筆者も実際に死海に飛び込んでみたが、想像以上に浮く。友人はまるで海月のように浮遊していた。
確かに生物はおらず、死ぬほど水はしょっぱい。