青いラグーンと珊瑚礁に囲まれた南国の楽園フィジー。リゾート地として知られるこの島々だが、第二次世界大戦下では連合軍にとって重要な防衛拠点のひとつだった。 特に首都スバ周辺には、今もジャングルに埋もれる防衛砲台跡が残っているという。実際に現地視察へ赴き、南太平洋戦域におけるフィジーの立ち位置と、スバ周辺に残された砲台跡を歩きながら、その歴史的意味を探る。
フィジーと南太平洋戦域
第二次世界大戦が太平洋に拡大した1941年以降、南太平洋は日本軍と連合軍の戦略上の激戦区となった。真珠湾攻撃後、日本軍はフィリピン、グアム、ラバウルを制圧し、さらに南下を進める。 この時点で連合国が恐れたのは、日本軍が南太平洋の島々を次々と占領し、オーストラリアやニュージーランドとアメリカ本土との連絡線を断つことであった。 もしこの連絡線が絶たれれば、南太平洋の戦況は一気に日本優勢に傾き、連合軍の反撃体制そのものが崩壊しかねなかった。
フィジーの戦略的重要性
フィジーは、オーストラリアとアメリカ西海岸を結ぶ海上航路の中継地であり、輸送ルート確保の要衝だった。 また、南太平洋防衛線の「縦軸」を支える拠点として、ニュージーランドやオーストラリアから派遣された兵力とともに、アメリカ軍による強化が進められた。 地理的に見れば、フィジーはソロモン諸島やニューカレドニアと並び、いわば「防波堤」として位置づけられた島だった。
戦時下の動員と要塞化
1942年、日本軍がソロモン諸島やニューギニアに進出すると、フィジーは前線に近い防衛拠点として急速に要塞化された。 ニュージーランド軍を中心とした駐屯軍が配置され、さらにアメリカ軍の工兵部隊が砲台、弾薬庫、飛行場を整備した。 その規模は、南太平洋戦域全体を俯瞰する上で見過ごせない規模であり、フィジーは「前線の一歩手前の盾」として連合軍戦略に組み込まれた。
スバ周辺に残る防衛砲台跡を求めて
首都スバは、戦時中に連合軍の司令部機能を担った都市のひとつであり、周辺の丘陵地には複数の防衛砲台が設置されたという。これらは日本艦隊による侵攻を想定して築かれたもので、太平洋を臨む視界の開けた高地に点在していたそうだ。

中央市場を散歩しつつ、防衛砲台遺跡の存在を知る人がいないか聞き込み調査をした。中々有識者に出会えず2時間がたったその時、とあるタクシー運転手から情報を得た。「スバから東にある町ラミを抜けた先にある文化センター近辺に旧アメリカ軍の拠点があったと祖父から聞いたことがある。」とのことで文化センターまで足を運んだ。

文化センターに到着したが、定休日だったのか入り口の門は閉ざされていた。遠くに人影が見えたため、声をかけると見るからに機嫌の悪そうな男が現れた。「この付近に第二次世界大戦下の建造物が残っていると噂を聞いた、何かご存じでしょうか。」と尋ねたところ、知らないと即答だった。
さすがに手ぶらで帰るわけにはいかず、事情を説明し食い下がってみた。すると「20ドル払えば、案内してやる」と言われた。彼に20ドルを手渡し案内を依頼することにした。
彼の案内する道は険しい山道だった。激しい揺れに見舞われながら、目的地へ向かっていった。道中いくつか民家を過ぎた途端、彼は声を荒げながら急げという。現場に異常な緊張感が走った。

「ここからは徒歩で向かうぞ。」そう言い放ち彼は車から降り、足早に目的地へ進んでいった。

彼は足を止め、「ここがお前の探していた場所だ。」といった。
そこは私の探し求めていた光景を超えるものだった。放置された塹壕、巨大な砲台の残骸、観測所跡。当時の戦争情景を想起させる構造物が手つかずの状態で数多く残されていた。
砲台の構造と役割
スバ近郊に残る砲台は、海岸線から接近する艦艇を監視・砲撃する目的で築かれたそうだ。 厚いコンクリートで固められた台座、弾薬庫、観測所などが一体となり、当時は最新鋭の防衛施設とされた。 実際に戦闘で使用されることはなかったが、存在そのものが抑止力となり、連合軍の防衛ラインを支える重要な役割を果たした。

観測所の裏には通路があり、ここから弾薬補給や伝令に素早く繋げれる構造になっていた。案内役の彼が、当時の状況をナラティブに語ってくれた。





実際に現地へ訪れると、砲台は半ばジャングルに飲み込まれ、自然の一部と化していた。 コンクリートには苔が生え、木々の根がひび割れを覆い尽くす光景は、時の流れと人間の営みの儚さを象徴しているようだった。 しかし、確かにそこに、南太平洋地域の戦火の後が残されていた。
ちなみにこの遺跡探訪中、案内役の彼は異常な緊張感をを持っており常に「急げ、急げ!」と連呼していた。後に聞くとフィジー軍の管理下にある場所らしく近隣住民による密告を恐れていたそうだった。
無事合流場所へ戻ると、彼は満面の笑みで追加の20ドルを手に取り足早に消えていったのだった。



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